賃貸アパートやマンションの大家さんにとって、入居者の一室がゴミ屋敷化することは、経営を揺るがす死活問題です。他の入居者からのクレーム対応、建物の資産価値の低下、そして最悪の場合の火災リスク。これらの問題を解決するため、最終手段として、その住人を訴え、法的に退去を求めることを検討せざるを得ない場合があります。大家さんがゴミ屋敷の住人を訴える場合、その主な目的は「賃貸借契約の解除」と、それに伴う「建物の明け渡し請求」となります。この訴訟の根拠となるのが、賃貸借契約における「信頼関係破壊の法理」です。借主は、家賃を支払う義務だけでなく、借りた部屋を適切に管理・使用する義務(善管注意義務)も負っています。部屋をゴミ屋敷化させ、建物を損傷させたり、悪臭や害虫で他の住民に著しい迷惑をかけたりする行為は、この義務に違反し、貸主である大家さんとの間の信頼関係を破壊する行為と見なされます。この「信頼関係の破壊」が認められれば、裁判所は契約の解除を有効と判断し、明け渡しを命じる判決を下す可能性が高くなります。訴訟を起こすにあたり、大家さん側が準備すべきことは、この信頼関係が破壊されたことを客観的に証明するための証拠です。具体的には、他の入居者からの苦情が記録された書面、行政から指導が入った際の記録、悪臭や害虫の発生状況を示す写真や専門家による報告書、そして、これまでに行ってきた注意勧告や内容証明郵便の控えなどが、重要な証拠となります。ただし、裁判には時間と費用がかかります。また、明け渡し判決が出たとしても、住人が任意に出ていかない場合は、強制執行の手続きが必要となります。したがって、訴訟はあくまで最終手段です。その前に、福祉機関と連携して住人の生活再建を支援するなど、可能な限り話し合いによる解決を目指す努力も、大家さんには求められると言えるでしょう。