住宅街の中で異彩を放つゴミ屋敷。悪臭や害虫、景観の悪化など、近隣住民にとっては耐え難い苦痛を強いる存在ですが、困り果てた住民が警察に通報しても、即座に解決に至るケースは稀です。そこには「民事不介入の原則」という大きな壁が存在します。警察の本分は犯罪の予防と捜査、そして公共の安全の維持であり、個人の敷地内に溜め込まれた「私物」を片付ける権限は、本来持っていません。どれほど周囲がゴミだと主張しても、所有者がそれを財産であると言い張れば、それは個人の権利の範囲内とみなされ、警察が強制的に撤去することは不法侵入や器物損壊に問われるリスクを孕んでいるのです。しかし、警察が全く無力というわけではありません。例えば、ゴミが公道にまで溢れ出し、通行を妨げている場合には、道路交通法違反の観点から指導や警告を行うことができます。また、ゴミ屋敷が原因で火災が発生する危険性が極めて高い場合や、異臭があまりに酷く住人の安否が懸念される場合には、緊急避難的に立ち入りを行うこともあります。警察の介入が期待できるもう一つの側面は、住人と近隣住民との間でのトラブルです。ゴミを巡って口論になり、暴行や脅迫、あるいは嫌がらせ行為が発生すれば、それは刑事事件の領域となり、警察は介入する正当な理由を得ます。とはいえ、ゴミそのものを物理的に排除し、問題を根本から解決するのは、警察ではなく自治体の役割です。近年では多くの自治体でゴミ屋敷対策条例が制定されており、行政による指導や勧告、さらには行政代執行という形で解決を図るのが一般的です。警察に連絡する際は、単に「汚いから何とかしてほしい」と伝えるのではなく、具体的な実害や事件性の予兆を伝えることが重要です。警察はあくまで治安の番人であり、ゴミ屋敷という生活環境の問題においては、自治体や福祉機関と連携するための「ハブ」としての役割を果たすことが多いのが実情です。この境界線を正しく理解しておくことが、無用な混乱を避け、実効性のある解決策を模索するための第一歩となります。