ゴミ屋敷という環境下で、人間が生存し続けるために最も工夫を凝らしているのが、食事と最低限の衛生管理です。キッチンが数年前から機能していないように見える部屋でも、住人は独自の知恵で日々の生活を繋いでいます。まず、食事に関しては「火を使わない」ことが鉄則となります。ガスコンロが不用品で埋まっているだけでなく、火災への無意識の恐怖や、コンロを掘り出す労力を回避するためです。そのため、食生活の全ては、電気ケトル一つ、あるいは電子レンジのみで完結するようになります。さらに状況が悪化すると、これら家電の周囲も塞がれ、最終的には常温で食べられる食品や、店で温めてもらった弁当だけで生活を支えるようになります。飲み物は、飲みかけのペットボトルが数え切れないほど放置される中で、新しく買ってきたものだけを区別して飲むという、危うい識別能力が試されます。衛生面においては、水回りの故障や閉鎖が大きな課題となります。トイレが詰まったり、風呂場が物置と化したりした後の生活は、極めて過酷です。多くの住人は、公共施設のトイレを利用したり、ウェットティッシュだけで体を拭くという生活に移行します。洗濯についても、コインランドリーへ行く気力があるうちは良いのですが、次第に「新しい服を買って使い捨てる」という、不経済かつゴミを増やす負の連鎖に陥ることもあります。このような生活を支えているのは、ある種の「マヒ」です。不衛生な状態が引き起こす健康被害や、異臭に対する感覚が鈍磨することで、異常な環境を日常として受け入れられるようになります。しかし、その裏側では、常に食中毒や感染症のリスクと隣り合わせの生活を送っており、精神的な疲弊は肉体的な汚れ以上に深刻なものとなっています。ゴミ屋敷での生活術は、生活を豊かにするためのものではなく、崩壊しかけた日常を明日へと繋ぎ止めるための、悲痛なサバイバル技術であると言わざるを得ません。
埋もれた部屋での食事と衛生管理術